民法男子

法律好きな学生が何となく法律をテーマに小説(実話?)を書いてみた

民法男子第4話~売買契約における瑕疵担保責任②基本編~

「流石、あずさだな」

「えへへ、ありがとうお兄ちゃん♪ じゃあ」

「じゃあ、次はこれを考えてみようぜ」

日野木は本棚の中から、本を取り出し、ここにいるみんなに見せた。

 

AはB家具商から、娘のために婚礼家具一式を買い入れた。Bはこの家具は防虫剤不要であると宣伝していた。ところが買入れ後、数か月もしないうちにこの家具の塗装に欠陥があったため虫がつき、家具は使い物にならなくなった。AはBに対し、どのような請求ができるか。婚礼家具が特定物の場合と不特定物の場合に分けて論じなさい。

 

「おお、瑕疵担保責任を使った問題だな、早速解いてみようよ」

俺はすかさず、彼にのる。

「ぶー、わかったわよ、面白そうだし♪」

彼女も乗ってくれた。これでなんとかなる・・・ハズ

「その前に・・・だ。前々から思っていたんだが、こういうAとかBってのはいささか分かりづらい」

「というと?」

「イメージがしにくいと、何を書けばいいかわからないってことだ。こういう問題の場合、自分なら誰に何を請求したいと考えたらわかりやすい。つまり問題文を書き換えるとこうなる」

 

俺(日野木啓介)あずさ家具商から、娘のために婚礼家具一式を買い入れた。あずさはこの家具は防虫剤不要であると宣伝していた。ところが買入れ後、数か月もしないうちにこの家具の塗装に欠陥があったため虫がつき、家具は使い物にならなくなった。あずさに対し、どのような請求ができるか。婚礼家具が特定物の場合と不特定物の場合に分けて論じなさい。

 

「ちょっと~、何で私が売主なのよ~」

不満をあらわにするあずさ。

「そりゃあ、あずさは瑕疵を作るに関して天下一品だからな、ははは」

「え?」

「あ、ああ、なるほどね、うん。よし、よしこれで行こう」

俺は啓介に余計なことを言うなと 小声で注意した。

「あ、ああ。まずは隠れた瑕疵があるかどうかだな」

「さっきやった、瑕疵概念を使うと主観的瑕疵概念で考えてあずささんは防虫剤不要であると宣伝していたと」

「もう、東條さんまでぇ」

「あ、いや、ごめんごめん」

「もーいいわよぉ、で、お兄ちゃんは私との間で防虫剤不要である婚礼家具を目的物とした売買契約を結んでいるでいいのかな

「いや、そう考えるよりかは俺とあずさの契約において、防虫剤不要である家具を給付するという基準ができたというべきだろう。つまり、基準から外れている=防虫剤不要と言っていたにも関わらず、家具の塗装に欠陥があり、虫がついているために使い物にならなくなったことは物の瑕疵にあたる言える」

 「なるほどな、じゃあ、次はお待ちかねの・・・」

「待って!東條さん、今のはまだ、瑕疵があると言えただけで『隠れた』瑕疵があると言えてないわ」

「おっとと、ありがとう。あずささん忘れていたよ(もちろん、わざとだが)隠れたのは買主の善意・無過失だから、この瑕疵を知らなかったことでいいのかな」

「正確には無過失も含むから、買主が注意をしてないと発見できない品質、性能と付け加えたほうがいいかもね、その方がパンチが強いし」

流石、兄と妹、説得力が強いということを同じパンチが強いと表現するのは遺伝子か。

 「なるほど、じゃあ当てはめると家具の塗装に欠陥があり、虫がついたことは買主である啓介にとっては注意をしていても発見できない品質・性能であるから隠れた瑕疵にあたるとすればいいね」

「うんうん、順調順調。これで次の論点である570条の法的性質にいけるな。さて、問題だ。何故、法的性質が問題になるのか、だ。」

「はい!はいー! もし私が買主だったら、売主に損害賠償と契約解除と新しいもの欠陥直せっコノ野郎て言いたくなるから、それができるかが問題になると思うからでーす♪」

「欠陥直せコノ野郎・・・?」

「あっ、いや、えと、完全履行請求ができるかな~って」

聞き間違いだろうか。

「あずさの言うとおり。その考えから法定責任説契約責任説に分かれてできるかでが変わってくる、まずは法定責任説だが・・・」

「法定責任説ってのは、要するにあれだ、特定物売買においては現状のまま引き渡しをすれば、それは履行したことになり債務不履行にはならない。だが、それじゃあ買主が可哀想だから特別に法定された責任を売主に負わせることによって公平を保つための制度である。どーよこれ言ったろ」

「相変わらず、その言い方が好きだな」

「こーゆうのは、もう頭に入ってんだよ。あってるだろ」

「まあ、あっているけどな。で逆に不特定物売買だと570条で処理できず、債務不履行で処理する。不特定物であることから再履行を頼んでもいいしな」

「うーん」

「どうした、あずさ」

「それで良いと思うけど、なんで特定物売買だと現状のまま引き渡せば債務不履行にならないのかが抜けてるわ、条文だけじゃ、パンチが弱い気がするの」

「なるほど・・・でもそれならあずささんはどう考えるのかな」

「総則で習った効果意思の問題かなぁと、ほら、錯誤のときに性質の錯誤は動機の錯誤であって効果意思に含まれないってあったじゃないですか。そこから、特定物売買のときは”目的物”であって目的物の性質までは動機に過ぎないから、目的物を引き渡せば債務不履行にならない・・・と」

「おお、凄い、凄いよ、あずささん。今の一番の説得力だよ!」

「いや、わたしはただ思ったことを言っただけで・・・」

「ははは、またまた流石と言わざるをえないな」

「ありがとう、ねえ、そろそろ私が作ったピーチパイ食べない?(俺らにとっては死亡宣告)」

「!」

「!」

俺たちはお互いに顔を見る。

(どーすんだよ、そういやそもそも時間稼ぎしても意味ねえじゃねーか)

(違うんだよ、あともう少ししたら、あずさは習い事に行かなくちゃならない)

(習い事?)

(ああ、そして行っている間にこれを処理する。いいな)

(なるほど、それまで時間稼ぎをすれば食わなくていいわけだ)

(その通り)

(ラジャー、状況を開始する!)

「あ、あずささん。まだ俺、お腹減ってないんだよ、折角作ってくれたし、もうちょっと後でいいかな」

「え? でも私、習い事・・・」

「あーずさ、ピーチパイはひとまず冷蔵庫に入れてだな、ほら、まだ法定責任説の損害賠償範囲と契約責任説が残っているじゃないかー」

「え、ええー」

「ええと、日野木の立場なら、あずさ家具商にもう一度履行請求したい、でも法定責任説の立場からは特定物を引き渡した時点で履行は終わっているから完全履行も請求できないし、修補請求もできないでいいよね、あずささん」

「そ、そうですね」

債務不履行415条は使えないから、損害賠償範囲は信頼利益に限られる、そうだなあずさ」

「そ、そうでけど、もー二人ともどうしたの!」

「い、いや別に・・・ねえ」

「あ、そうだよなあ」

「(なんかあやしい)」

「まあまあ、あずさ、せっかくここまで来たんだぜ。契約責任説いこう」

「・・・わかったわよう」

ジト目で見るあずさを余所に話を進めることにした。

「契約責任説は、570条を債務不履行の特則として考えるんだったね」

「そう、つまり簡単に言うと570条は債務不履行の効果で使えるということ。それが意味することは、特定物と不特定物はそもそも問題にならないし、法定責任説と違って完全履行請求権を有するでいいな、あずさ」

「さっきから聞いてくるけどお兄ちゃん私より先に習ったんでしょ・・・」

「確認だよ、確認」

「・・・・・・・」

「さっきのあずささんの法定責任説を反対解釈して、契約責任説は瑕疵のない目的物を引き渡すこと=目的物の性質を含んだ動機までが効果意思と考えることができるでいいね。不特定物の場合でも、570条により完全履行請求ができる限り考える必要がない・・・でオーケーか」

「その考えで大丈夫な筈だ、強いて言うなら瑕疵のある目的物を引き渡したならそれは不完全な履行であるという点が決定的に法定責任説と違うということだ」

「・・・・・・・」

「なるほどな、で損害賠償も債務不履行の特則だから履行利益・・・と」

「じゃあ、本格的にこの問題を考えていきたいんだが、今回は特定物と不特定物を二つに分けて論じなさいとのことだから、この問題においては契約責任説を考える必要はないな。それなら時間稼ぎ契約責任説を考える必要はなかったか、HAHAHA

「じかんかせぎ? それは・・・どういうことかな・・・お兄ちゃん?」

うわ、馬鹿と言っても遅い、覆水盆に返らず・・・だった。そして何よりも驚いたのは彼女の変貌にあった。

「う、いや、あの、いやな、あー、そういや、お前、習い事」

「今日は習い事休みだよ、お兄ちゃん」

「うえぇ、まじか」

「あと、いつも隠しごとをしたときは私の事をお前っていうよね、お兄ちゃん」

この低音で言うお兄ちゃんとの言葉が一番恐かった(後談)

「すまん、許してくれ、俺はまだ生きたい! あの得体の知れないものを食って死ぬのは嫌なんだああああああ・・・・あ」

いつも、冷静な日野木、こいつの弱点が今わかった。妹だ、妹を前にしたら、彼の思考能力は停止し、言わなくていいことまで言ってしまうのだ。

「そ~う、へえ、そうなんだ~」

笑顔が怖い。

「す、す、すまない、あずさ」

「そこに座れ」

「は、はいィ」

兄である日野木を座らせると、あずさは後ろに回り、首元で腕を交差させた。

まぎれもない、チョークスリーパーである。

「あががががががが・・・」

「東條さん、実はわたし、古武術を習っているんです♪」

習い事は古武術だったのだ。あ、落ちた。

「さてと、東條さん覚悟はいいですか?」

「\(^o^)/」

 

                             続く

参考:基本講義債権各論Ⅰ第2版《潮見佳男著》

   論文基本問題民法②120選

   ロースクール民法(下)

補足:今回は法的性質に基本的なことを述べました。問題は次の研究編で解こうかな      と、錯誤問題もそこで取り扱おうかと。しかし、ブログで小説(しかも法律)は大変ですね(笑) 相変わらず、文字の大きさと色は個人的判断です。あと絵師さん募集ちう(笑)