民法男子第6話~取消しと無効①~知識編~
「前は酷い目にあった・・・」
そうぼやいたのは、ある日の授業終わり。都合の関係で中々啓介と会えず、ようやく会えたときだった。
「ああ・・・、とにかく、あずさが料理作ったときは三十六計逃走だ、逃げろ逃げろとにかく逃げろだ」
まさにあずささんが作った料理は709条の不法行為の損害にあたるシロモノである。
「で、久しぶりに会えたわけだが、今日は何をする?」
「実は今日は東條に紹介したい奴がいる、ついて来てくれ」
「?」
日野木に言われるがまま、俺は後についていった。そこは普段滅多に行かない館であり、階段を下りは下って、地下2階まできた。ここに来るのは流石に初めてである。
ここに数ある部室があること認識した俺は、一室に目を奪われる。そこにはこう書いてあった。
『法と時の部屋』
「なあ、これってドラゴン・・・」
「ここだ、入るぞ」
ろくなツッコミができないまま、部屋に入ると、そこにはPCにひたすら向かう男の姿があった。
「よお、連れてきたぜ、鏑木」
「なんだ、君か」
不思議系の雰囲気漂う彼は鏑木信也という。もともとは政治学部で、なんでも法律の面白さに嵌まり、転科試験を受けて法学部に来たらしい。
「あーはじめまして、東條といいます」
「・・・どうも」
(鏑木は結構人見知りするタイプなんだよ)
ご忠告どうも。でもそれなら何で彼は紹介したのだろうか
「どう? 進んでいるか?」
「試作はできている」
「試作?」
「ああ、俺と鏑木はな、民法クエストゲームを作っているんだよ」
「みんぽうくえすとげーむ?」
「それはな・・・」
日野木に話を聞くところによると、民法クエストとは某RPGをモチーフにお手軽に民法を学べるゲームらしい。法律に抵抗感がある人もみんな大好きゲームと融合すれば、なんとやら・・・らしい。なるほど、俺が呼ばれたのはテストプレイヤーというわけだ。
「というわけで早速やってくれ」
「わかった」
俺が一台のパソコンの前に座り、後ろに鏑木と日野木が覗きこんでいる形だ。
~民法クエスト~
『ようこそ民法クエストへ、あなたは魔王にさらわれた、王女様を助ける法律家です♪』
(法律家ってw)
どうやら自由にキャラを動かせるらしい。案外自由度が高い、ここがセーブポイント、ここが宿屋と・・・。
あ、敵が出てきた。
『民法においての取消しと無効について述べてモンスターを倒せ』
・・・・・・なんつーアバウトな・・・タイピングしないといけないし
えーと、無効は最初から絶対的に無効であり、有効であることを前提に取消しは意思表示をすることで遡及的に無効である。
『モンスターに50ダメージ。残りHP150。次に取消しと無効における主張権者について述べよ』
なるほど、多分解答であってたら、ダメージを与えられるわけか。う~んゲーム性としては面倒かもしれない。
えっと、取消しは主張権者が限定されており(120条)、無効は誰でも主張できる。
『モンスターに50ダメージ。残りHP100。取消しと無効の追認の可否について述べよ』
一問解答ごとに50ダメージか、つーことは、単純計算であと2問かな。
取消しは追認すれば確定的効果が発生するが、無効は追認しても効果が発生しない。
『モンスターに50ダメージ。残りHP50。無効と取消しの権利行使期間について述べよ』
余裕余裕、取消権は追認するときから5年、行為の時から20年で消滅するのに対して無効はいつまでも消滅しない(126条)
『モンスターに50ダメージ。残りHP0。モンスターは倒れた。経験値100を得た。LV1が1上がった』
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・どう?」
「うーん、択一にした方がいいんじゃね?」
「ですよねー」
「・・・やっぱり択一の方がサクサク進むか、しかしそうなるとプログラムを組み直さないといけないな、ううむブツブツ・・・」
鏑木はそういうと座っていた俺を押しのけてパソコンと向き合ってしまった。
「気にするな、こーいうやつなんだよ」
確かに彼は変わっている気がする。
「それにしても、ありがとな。作っている側からするとイマイチ分からないんだわ」
「いやいや、でも中々面白い試みをしているじゃないか」
「まあな、あ、折角来たんだから、もっと詳しく取消しと無効についてやるかー」
「そうだな」
続く
参考:ロースクール民法③(上)井上英治
補足:はい、今回はかなり短めとなりました。すみませぬ。更新遅れたのにこの分量かよ・・・と思っても言わないでください。もれなくUp主の私のメンタルは紙クズなのでしねます。大学が思っていたより忙しく、アップアップ状態です、ハイ。今回は取消しと無効というわけで、最低限の違いを述べたに過ぎませんが案外、重要なところです。今回は基本編までの二段階構成でいきたいと思いますが、次の回は何故取消しと無効でこう違うのか、と踏み込んだ内容と共に、私見も書きたいので研究編に近くなるもやしれません。
あと、リーガルハイ面白かったですよね(笑)本当にありがとうございました。