民法男子第7話~取消しと無効②基本・研究編~
「無効と取消しについて、そもそも無効も取消しも法律行為を否認する手段なわけだが、これについて何か意見は?」
唐突に始まった勉強会、と言っても一人はパソコンに夢中でキーボードを叩く音が響くだけなのだが。
「意見ってのもなあ、それでいいんじゃないの?」
「・・・主張の仕方」
ボソッと呟く鏑木、ちょっとびっくりしたが、どうやら先ほどの言葉は訂正しないといけないらしい。彼も参加していたのだ。
「主張の仕方?」
「そうだ、鏑木の言うとおり。さっきお前が民法クエストでモンスターを倒そうとした
とき答えただろ、『無効は最初から絶対的に無効であり、有効であることを前提に取消しは意思表示をすることで遡及的に無効である。』 と」
「あーあー、そういう意味ね。つまり、取消しは意思表示をして初めて遡及的に無効なわけだけど、無効は意思表示をする以前に最初から無効なわけだ、まーこうして見ると無効の方が効力が強いように見えるが」
「確かに、言い換えれば意思表示を介在しないと法律行為を否定できないわけだから、無効の方が法律行為を否定する手段としては意思表示を必要としない点で効力が強いと言えそう。だがしかし・・・」
「・・・無効と取消しの二重効」
またもや、呟いた鏑木。話に入ってきたらいいのにと思うが、彼は話すのが苦手らしい。まあ、わかるけど。
「判例の立場だと無効と取消しは両方主張してもいいんだったね。理由はさっき日野木が言った両方とも法律行為を否定する手段に過ぎないことと、それと無効を主張するときは表意者だけに限定すればいいことと、表意者の保護のためか」
「そこから考えると無効と取消しは大差ないように思えるが・・・」
「あえて反論したいと(笑)」
「まあ(笑)」
判例は神である。確かに、裁判所の先例は重視されるべきだろう。だが、やはりそれだけじゃあ面白くない。面白くないのだ。法学という学問に入った限りは考えなくてはならない。知識の探求、それが学問の面白さである。
「で、日野木ならどう反論する?」
「俺なら、取消しの余地がないことを主張したいな、やっぱり。無効と取消し、二つの概念は違う。無効は絶対的に無効であり、法律行為そのものの成立を否定する。逆に取消しは法律行為は容認しようと思えばできるが表意者の保護のために否定できる余地を作っておくみたいなイメージ、問題はそれをどう言うかだな」
「取消しと無効の条文規定にもよると思うけど・・・意思無能力者による無効と制限行為能力者の取消し、錯誤の無効、さまざまな規定が置かれているけど、何故、錯誤は無効か何故詐欺は取消しなのか」
「とどのつまり、そこが問題となる。どうも表意者の保護を図るというために無効と取消しを主張できるようにという理由は納得できない、権利行使者の観点からだと取消しは主張権者が限定されており(120条)、無効は誰でも主張できる・・・のだから、二重効を認めると無効を誰でも主張することを許すことになる。判例は表意者に限定すべきと言っているが、解釈に頼りすぎじゃないかな。あくまでも取消しの対象となる法律行為は容認できる法律行為が前提だと思う。つまり、取消しとは無効にすべき法律行為じゃないけども、表意者に選択させることにより表意者を保護するという考え方じゃないのか? 逆に無効は最初から無効なのだから、容認されてない・・・ここが上手く説明できないんだが」
「うーん・・・。その容認っていうのは分かる。有効な法律として見てもいいよという考えだよね。取消しは。逆に無効はまさに無から何も生じないわけだから・・・頭がこんがらがってきた(笑)」
いつもは事前に調べてくるのだが、今回は唐突の勉強なので詰まる。常に答えがでるわけじゃないことはわかっているのだが。
と、その時
「・・・90条」
「え?」
「民法90条見てみ」
鏑木の言葉だった。俺は唯一のアイテムである六法を開いた。
民法 90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
「何か気づかない?」
鏑木がそう言ったとき、俺はひらめいた。珍しく。
「国家だ・・・」
「国家?」
「国家の承認だよ、日野木」
「どういうことだ」
「民法の原則は自由な意思による私的自治だろ。だけど、誰しも自分の好き勝手というわけにはいかない。だから法律による制限がかかる」
「なるほどな、その法律の制限の一態様こそ無効というわけだ」
「そう。だから図にすると」
法律行為の実現意思
(私的自治の原則)
↓
↓<国家の承認(その法律行為を認めていいかどうかの判断)
↓
法律行為の実現
「というわけ。だから無効とは国家が公序良俗のように私的自治の例外として認めなかった法律行為のことをいうべきなんだ」
「そうなると取消しは表意者保護に加えて私的自治に最大限介入しないように考えて制度と言えるな」
「私見だけど結局、判例についていうなら、その法律行為が無効と評価に値するべきか、つまり私的自治を制限してまで法律行為を最大限無効にする必要性があるか、それとも私的自治の最小限介入を抑えて、当事者に委ねることが適切かどうかを述べるべきだったと言えそう」
「なるほど、中々斬新な考えじゃないか東條」
「だろ、これは鏑木の・・・」
「できた」
言おうとした言葉を鏑木が遮った。どうやらゲームが改良されたらしい。
「さっそくやってくれ」
有無も言わさず俺を座らせると早く早くと言わんばかりに急かした。よほど自身があるのだろう。さっそく立ち上げてみた。
ジーーーーーーーーーーーーー
ドゥン!!!!!!!!
『お気の毒ですが、あなたのシステムデータは消失しました』
その場にいた全員が石化したのは言うまでもない。
続く
参考:ロースクール民法③(上)井上英治
はい、こんばんは。最近ハードで泣きそうになってます(笑)今回は取消しと無効の二重効について述べました。私見入りまくりですハイ(笑) 基本的に私は二重効否定派です。だって肯定するなら錯誤や公序良俗も取消しでいいじゃないですか。まあ、そんなこんなで、ここまで読んでくださりありがとうございます。大学の都合上、毎週土曜日に更新できそうです。来週は番外編として本紹介とかやります 。